11.1. 生物学と社会 : タバコの害の動かぬ証拠
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アメリカ原住民の一般的な交易商品だった
ヨーロッパ人がアメリカ大陸の初航海から帰還したときに持ち帰り、すみやかにヨーロッパに広まった
1950年には米国人の約半数が1日に1箱以上のタバコを吸っていた
しばしば「健康上の利益」が宣伝されていた
一部の医師たちは、タバコの消費量が増えるに従って肺癌の発生率が高まる不穏な傾向に気づいていた 肺がんは1930年には珍しかったが、1955年には米国人男性にとって最も死亡率の高い癌になっていた
1990年には男性では他のすべての癌による死者の2倍以上が肺がんによって死亡していた
これまでに得られている証拠は純粋に統計的なものかあるいは動物実験によるものであって、タバコの煙がヒトに癌を引き起こす直接の証拠は得られていない点を指摘した
1996年に、研究者がタバコの煙の成分の一つであるPBDEとよばれる物質を、実験室で培養中のヒトの胚細胞に添加する実験を行ったときに「動かぬ証拠」が得られた この細胞の中でPBDEがp53と呼ばれる遺伝子のDNAに結合することが示された p53遺伝子にコードされるタンパク質は、本来は腫瘍の形成を抑制する働きを持つ
PBDEがp53遺伝子に突然変異を引き起こし、p53タンパク質を不活性化して腫瘍の形成を招くことが証明された この研究はタバコの煙の化学物質とヒトの肺がん形成を直接結びつけるものだった
遺伝子の突然変異はどうして癌に結びつくのだろうか
癌に関連する遺伝子の多くは、細胞内で他の遺伝子群の発現をオン・オフする機能をもつタンパク質をコードしている
これらのタンパク質が正常に機能しないと、細胞は癌になる
実際、どの遺伝子を活性化するかを常に正確に制御することが、正常な細胞の機能に決定的に重要である